【第19次応募作品】
「孫がこんなに大きくなったよ」
墓前を見ていない、その父の目には
わたしによく似た女性が笑ってた
〈結咲りと・千葉県・29才・女性〉からの投稿
幼い頃、毎年彼岸の季節には、親せき揃って亡き祖母の墓参りに行っていました。祖父は元気でしたが、祖母は身体が弱く精神的にも病を患っていた苦労人だったそうです。わたしが生まれた頃には、既に亡き人でした。\r\nそんな祖母と父が過ごせた時間はわずか5年。ほぼ兄嫁に育てられた父は、「家族」に対しての憧れと思いが強い人です。自分のような孤独な思いは、わたしたち娘にはさせまいと、日々一生懸命でした。\r\nそんな父が、唯一父親らしくない表情を、目をするときがあるのを、子供ながらに覚えています。\r\n花を生け、線香をあげ、ひとつ手を合わせた後にする表情。その言葉は、いつも娘のわたしの成長を伝えるものであったけれど、本当に伝えたかった言葉はそうじゃないのではないかと、大人になった今では思います。\r\n線香をあげるとき、いつも遠くを見ていました。墓前ではない、その奥か、遠くの記憶かを。一度だけその父の綺麗な瞳に、わたしそっくりな初老の女性が映っていたのを見た思い出があります。祖母の写真を見たことがあったので、わたしはそれが祖母だと確信しました。みんなに話しても信じてくれなかったけれど、わたしは今でもそれが見間違いではないと思っています。\r\n祖母は父の中で生きています。\r\nそして、わたしの中でも。\r\n祖母の命日は8月3日。そして、わたしの生まれた日は、8月3日です。\r\n
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