グリーフの状態の人に対して、「日にち薬だから」と言葉をかけることがあります。「悲しみや辛さも、時とともに薄らいでいくから」といった意味ですが、グリーフは必ずしも時間だけが解決してくれるものではありません。とはいえ、時間とともに気持ちに変化が起きるのも事実ですし、社会が一定の時間で「立ち直り」を期待していることも否定できません。「忌引」休暇として、親や配偶者が亡くなった場合には7日、おじやおばなら1日などの規定を設けている組織は少なくないでしょう。一定の時間後、日常に復帰することを前提にしているといえます。時間とグリーフには密接な関係があることは確かです。
では、グリーフのプロセスとは実際、どのようなものなのでしょう? 日本で初めて「死への準備教育」の必要性を主張した上智大学名誉教授のアルフォンス・デーケンさんは、プロセスを12段階に分けています。ご参考までに項目だけ書くと「①精神的打撃と麻痺状態②否認③パニック④怒りと不当感⑤敵意と恨み⑥罪意識⑦空想形成⑧孤独感と抑うつ⑨精神的混乱と無関心⑩あきらめ・受容⑪新しい希望~ユーモアと笑いの再発見⑫立ち直りの段階~新しいアイデンティティの誕生」。
また、がん患者ら死にゆく人たちにインタビューして「死の受容」プロセスを分析し、世界の死生学に大きな影響を与えた精神科医のE・キューブラ・ロスさんは死の受容を「①否認と隔離②怒り③取引④抑うつ⑤受容」の5つに分類しています。グリーフもこれと同様だという主張もあります。ほかに4段階説や7段階説を唱える研究者もいます。悲嘆のピークは最初の6ヶ月という研究もあれば、異論も多くあります。
亡くなった人との関係性の濃淡、年齢や死因など条件が異なればグリーフの症状が様々なように、回復のプロセスや時間の長短は人それぞれといえます。命日や亡くなった人の誕生日といった「記念日」になると、落ち着いていた感情が激しい悲しみに襲われるなど、後戻りがあったり、段階が前後したりは当たり前です。諸説については、参考にすることはあっても「プロセスに従っていないから異常だ」などと考えないことが、遺族にも周囲の人にも大切です。いまは想像もできないけれどいつかは「適応」が訪れる。そんな一種の「希望」として受け止めたいものです。